【1】試すという動作
チンパンジーは道具を使うことのできる動物である。枝を得れば孔を探り、筆を得れば絵を描くことができる。しかし枝の長短を試みて蜜を得たり、筆を選んで紙との相性を論ずるには至らないのが本来の野性の姿である。すなわち道具を使うことと、それらの比較を試みることの間には、非常に大きな隔たりがある。枝の長短を試す、あるいは筆の腰を試すという動作は、知性の産物に他ならない。
我々のような素人をロッククライミングの岩場に連れて行けば、ザイルを何度も引張り、身の安全を試みるだろう。知性は我々にこのような試行の繰り返しを要求するが、同時に、下手な知識があるほど、気温と強度の関係、鋭利な岩角と応力の関係、残された社会と自分の関係が頭をよぎり、ザイルを試す意欲はむしろ失われるのが通常である。試みることは知性の産物ではあるが、単にそれだけでは経験と度胸の前に敗れることが多いのも現実である。
木から落ちないだけではなく、筆を使い、筆を選ぶことを学び、そして最後には筆を選ばぬようになるまでには、長い道のりがあるはずである。今回はシミュレーションの技法について検討した。
|